なぜ、「釜」で今も焚き続けるのか

木村石鹸の代名詞ともいえるのが「釜焚き製法」。大きな釜で油脂を焚き、時間をかけ石鹸へと変えていく昔ながらの製法です。
今どき、これほど手間のかかる工程をなぜ続けているのか?と尋ねてみると、担当者から「先代の社長が、とにかく石鹸を焚くのが好きだった。その製法が社内で【石鹸は焚くもの】という当たり前の文化になっていっただけ。」
記者はまさかの予想もしない答えに声を飲み込んでしまった、「釜炊きは暑いし面倒、でも製造するのはこの作り方が当たり前。だからこそ釜で焚くという方法に正直、社員の中には【大変で嫌な仕事】と思っていた時期もあったと思います。」
伝統へのこだわりというより「せっけん=釜焚き」・「なんとなく続いてきた」と言う、なんともまっすぐで正直な答えでした。
けれど、その「なんとなく」は毎日欠かさず、釜を焚き続けたという事実には変わりません。
当たり前のように続けてきたからこそ、そこには誰にも真似できない技術と経験が積み重なり、今では木村石鹸の品質を支える大切な柱になっています。飾らない答えの奥に、ものづくりへの誠実な姿勢が垣間見えた気がしました。
まさに職人技!感覚を研ぎ澄ませる過酷な現場

今回の取材では特別に製造現場への立ち入りを許され、通常の見学ルートからは決して入れない「裏側」の熱気に足を踏み入れた。
視界の先には、湯気を上げる大きな釜。そのそばにピタリと寄り添うのは、白い作業着に身を包んだ一人の職人だ。
室温40度を超える酷暑のなか、じっと釜の深部を見つめている。バルブを握る手元は微動だにせず、煮えたぎる石鹸原料の対流や泡立ちの僅かな変化から一瞬も目を離さない。火加減をコントロールしているのは、マニュアルの数値ではなく、職人の研ぎ澄まされた感覚そのものだ。
その日、その時、その瞬間にしか見せない原料の「表情」と真っ向から向き合い、対話するように火入れを行っていく。
立ち込める薬品の匂いと、肌を焼くような熱い蒸気。その厳しい環境下で、たった一つの釜に何時間も張り付き直視し続ける圧巻の集中力に、息をのむと同時に思わず頭が下がる思いだった。
泥臭くも思えるこの製法は、単なる伝統の継承ではない。この手仕事だからこそ生まれる、確かな価値がそこにはあると感じた。
大規模なプラントで化学的につくられる石鹸は、不純物を徹底的に取り除いた「尖った」仕上がりになりがちです。
一方で、釜で焚く木村石鹸の石鹸には、油脂に含まれるミネラルなどの余計なものが適度に残ります。
これが、純水とミネラルウォーターの違いのように、肌当たりの「柔らかさ」を生んでいるのだそう。

しかもこの製法で作られた石鹸は、同じ原料を渡されても他社が簡単に真似できるものではないといいます。既製の石鹸素地を仕入れず、油脂の段階から自社で仕込むからこそ蓄積されるノウハウがあり、それがそのまま他社との違いになっています。
効率を優先して全自動化していく大手メーカーとは対照的に、あえて手間のかかる工程を見せることで、見学に訪れた人が職人の言葉に感動し、ファンになっていくという循環も生まれているそうです。
「12」にこだわり抜いた、5年間の開発秘話

木村石鹸の看板商品として、いまや確固たる風格を漂わせる「12/JU-NI(ジューニ)」。このシャンプーが誕生する背景に、一人の男が注ぎ込んだ並々ならぬ情熱と密やかな物語(ドラマ)があったとは、夢にも思わなかった。
取材のさなか、私たちはひとつの開発秘話に辿り着いた。
主役の名は、開発担当の多胡さん。入社から約5年間、目に見える成果が出ない研究に、ただひたすらに向き合い続けていたという。意外なことに、会社から厳しい数値目標を詰められていたわけでも、「シャンプーを作れ」と命じられていたわけでもない。
そんな暗中模索の日々を経て、多胡さんから満を持して届いたのが「すごいシャンプーができました!」という一報だった。こうして産声を上げたのが「12/JU-NI」だ。
「万人向けではありません。合う人と、合わない人がいます。」
公式サイトに掲げられた潔いまでの正直な宣言。その尖ったこだわりこそが熱狂的なファンを生み、今や同社を代表する看板商品へと成長を遂げた。
数字で急かすことなく、一人の情熱が実を結ぶまでじっくりと待つ。木村石鹸という会社の懐の深さが、見事に結実したエピソードだ。
この話を聞いたとき、工場見学の最中に耳にした雑談が不意に頭をよぎった。
その社風は、製造ラインの空気感や組織の構造そのものにも深く根付いている。木村石鹸には稟議書も、社長の承認印すら存在しない。意思決定のすべては、現場の判断に委ねられているのだという。
誰かに命じられるのではなく、「自分で選ぶ」から前向きになれる
一般的な会社では、ラインの出荷作業といえば管理者が指示を出すのが普通ですよね。場所の振り分けや「不公平感が出ないように」といった配慮をした上で、配置を決めて作業を進めていくイメージがあります。
ですが、こちらでは管理者の指示ではなく、朝礼のあとに社員自身が手を挙げて自然と持ち場が決まっていくのだそうです。
工場内にある体力を使うハードな作業エリアも、集中力が必要な細かい作業エリアも、それぞれが自分の意思で配置を決めていくのだとか。
「誰かに命じられた仕事」よりも、「自分で選んだ仕事」のほうが、不思議と前向きに取り組めるのかもしれません。
くせ毛に悩む方から届いた手紙

木村石鹸さんのもとには、時々お客様から手書きの手紙が届くのだそうです。
なかでも印象的だったのが、会社宛てではなく、開発を担当した多胡(たご)さん個人へ届いた一通の手紙。長年くせ毛に悩んでいたお客様からのものでした。
ヘアケアブランド「12/JU-NI」のシャンプーを使い始めてから、まとまりにくかった髪が扱いやすくなり嬉しかった――。そんな感謝の言葉が、便せんにびっしりと綴られていたといいます。
驚くことに、こうした手紙が届くのは決して一度や二度ではありません。
木村石鹸さんは楽天市場やAmazonのような大手ECモールだけでなく、自社のオンラインストアでの直販にも力を入れています。そこにあるのは「ただ便利だから」という理由だけでなく、「木村石鹸という会社を応援したい」と、あえて公式サイトを選んでくれるお客様の存在です。
定期便の中に手書きのお礼状やちょっとしたお菓子を同梱するなど、一見すると「効率」とは無縁のような取り組みを今も続けているのも、「一人ひとりのお客様との関係を大切にしたい」という温かい思いがあるからこそ。
「数字」としてではなく、「顔の見える一人」のために寄り添う。
そんな誠実な姿勢があるからこそ、お客様の心を動かし、また新しい手紙が届き続けているのかもしれません。

※実は私の娘もくせ毛で悩んでいましたが、12/JU-NIシャンプーを使ったところ「髪、良い感じになった^^」と私に笑顔で報告してくれました。
過去も現在もそして、未来にも石鹸。

以前から愛用していた製品と惹かれていたつもりの木村石鹸でしたが、話を聞くほどに、非効率に見えることをあえて手放さない姿勢や、数字より人の感覚を信じる文化が、100年という時間の歩みを持ってあらためて伝わってきました。
その中で小さな余談にはなりますが、見学を開始した直後、工場入口で最初に目に留まったのは、そっと置かれた小さな黒板(記者と写ったウェルカムボード)。
「お越しいただきありがとうございます」
と、手書きされたメッセージ。
小さな事かも知れないが私たちが来た時に「いらっしゃい」と出迎えてくれている演出。効率だけを考えるなら省いてしまってもおかしくない事を当たり前のようにしてくれるところに、取材前から感じていた印象そのままの温かさを見た気がしました。

ギフカで木村石鹸の商品を選ぶということは、単に日用品を一つ貰ったという意味を持つのかもしれません。その裏側では当たり前のように続いてきた釜焚きの手間、5年間待ち続けた開発も、すべてがひとつの石鹸やシャンプーに詰まっている。
そう考えると、数ある交換商品の中の一つが、選ばれた特別なものに感じると思いませんか?
